特別支援学校学習指導要領にある「特別の教科 道徳」
特別支援学校幼稚部教育要領 小学部・中学部学習指導要領には下記の通りの記載があります。
特別支援学校の先生方は、上記の内容を頼りに、個々の児童生徒の実態に応じた道徳の授業を形にするというミッションがあります。
特に、知的障害の程度が中度・重度の児童生徒の場合、道徳の授業をどのようにしたらいいのか、とても判断が難しいです。
この記事では青マーカーの箇所を踏まえ、集団での道徳の授業を形にした事例を紹介します💡
なお、道徳の内容項目については、学習指導要領解説「特別の教科 道徳編」(小学校、中学校)をご参照ください。
下のファイルは、内容項目を一覧化し、内容項目の要点を把握できるように作成したツールです。
道徳科の目標から読み取れる、学習の3ステップ
学習指導要領に記載されている目標を読むと、黄色 ⇒ 赤 ⇒ 青のように大きく3つのステップがあることが分かります。
なお、「学習したら直ちに行動として表現されなければならない」など結果を焦らないことが大切です💡
中度・重度の知的障害がある児童生徒の道徳的諸価値の理解とは??
知的障害がある児童生徒の学習上の特性としては以下のようなことが示されています。
知的障害のある生徒の学習上の特性としては,学習によって得た知識や技能が断片的になりやすく,実際の生活の場面の中で生かすことが難しいことが挙げられる。そのため,実際の生活場面に即しながら,繰り返して学習することにより,必要な知識や技能等を身に付けられるようにする継続的,段階的な指導が重要となる。生徒が一度身に付けた知識や技能等は,着実に実行されることが多い。
また,成功経験が少ないことなどにより,主体的に活動に取り組む意欲が十分に育っていないことが多い。そのため,学習の過程では,生徒が頑張っているところやできたところを細かく認めたり,称賛したりすることで,生徒の自信や主体的に取り組む意欲を育むことが重要となる。
さらに,抽象的な内容の指導よりも,実際的な生活場面の中で,具体的に思考や判断,表現できるようにする指導が効果的である。
知的障害のある生徒の学習上の特性等 特別支援学校学習指導要領解説 知的障害者教科等編(上)(高等部)平成31年2月
このことから「中度・重度の知的障害がある人が、抽象化・概念化された道徳的諸価値を理解することはどこまでできるのだろうか?」という疑問が湧くのは自然なことのように思います。
ここで立ち止まって考えることは大切なことですが、前に進みにくくなってしまう可能性があります。
そこで大事なのは大局観(大きい目線)で捉えるということです。
教材や学習活動の工夫で「判断力、心情、実践意欲と態度」は育める!
「道徳的価値の理解が成立しているか」を突き詰めていくと答えをだすのが大変難しいと思います。
しかしながら、
- 授業の中で本人なりに道徳科の見方・考え方を働かせる
- 授業を踏まえて、学校教育全体の中で道徳科の見方・考え方を働かせるように関わる
このプロセスで、道徳的判断力、心情、実践意欲と態度が育っていることがわかる具体的な場面に出会える可能性は高まると考えられます。
※すぐには具体的な場面に遭遇できないかもしれませんが、少なくとも学習活動の中で本人が向き合っている様子を見取ることはできます。
障害特性を考慮した授業づくり3つのポイント
道徳の教材といえば、読み物をイメージされる方が多いと思います。
読み物教材を使って授業を進める時には、次のような状況が起こり得ます。
そこで、上記の点を考慮した教材を準備することが必要です。
知的障害教育に係わったことがある先生であれば、特別に新しいことはないと思います💡
【実践事例】特別支援学校中学部で実施された集団での授業
他教科等と道徳の項目を関連させた題材設定と授業形態
各教科や生活単元学習、行事等と小学校学習指導要領「特別の教科 道徳」の内容項目を、中学部のカリキュラムと照らし合わせ、体験的な内容が含まれる学習や行事等を選定した。
学習指導要領の記載にある「指導の重点を定め,指導内容を具体化し,体験的な活動を取り入れるなどの工夫を行うこと」を考慮していることが分かります。
授業で経験したことの中で記憶に新しいことや、相手を意識した関りが多いものを検討し、題材を設定した。また、意見交換をして共感し合えるように、全員参加(18名)の一斉授業を基本とした。
題材によっては、より丁寧に自分自身を振り返ったり、他者の心情を理解するためにロールプレイを取り入れたりしながら、考えを深められるよう、単元の中にグループ別の時間も設定した。
生徒同士が共有している学校場面を題材として、他の生徒の道徳的判断、心情、実践意欲と態度に気づき、声をかけあえるような授業づくりの工夫がなされています。
自分の気持ちに注目できるように少人数のグループで実施する時間も設定しています。
【中度・重度の生徒】代弁的・翻訳的支援など表現を支援
心理劇の手法(補助自我)を応用し、教師が生徒の内面の気持ちを代弁したり、考えを整理して翻訳的な役割をしたるするようにした。
自分の考えや気持ちを表現することが難しい生徒に、教師が気持ちを表す語彙などを提示して表出のきっかけを作ったり、気持ちや考えを整理してまとめたりすることができるようにした。
心情カードを活用して、自分の気持ちを表情や色から選択できるようにした。
「教師が言語化していいのか?教え込んでいることにはならないか?」葛藤しました。
あくまでも、気持ちに気付いたり、言語化したりする補助というスタンスです。
「違う」様子であれば、そこから始まる対話の中で自分との向き合っていると考えています。
この「向き合っている様子」が重要です💡
しっくりきたら表情豊かに感情が湧いてきます。
しっくりこなかったら、考えている様子があると思います。
【授業展開】マラソン大会の時の自分と向き合おう
この「教師とのやりとり」は、日頃の様子を知っていて、当日のことも知っていて、コミュニケーションの取り方を知っている担任の先生やクラスの友達だからこそできることです💡
保健体育の授業とは異なる見方・考え方を働かせられるように指導・支援することが大切です💡
先生が道徳的価値をよく理解していると、代弁・翻訳する先生の言葉も道徳らしくなります。
論文では他の内容項目を扱った授業も紹介されています。
・内容項目C(主として集団や社会との関わりに関すること)<勤労・公共の精神>
まとめ
道徳の主担当の先生が、道徳の内容項目の視点で学校生活を見つめ直すことで、良い授業の題材が見つかります💡
児童生徒自身の写真を使ったり、他教科の成果物や記録表を使ったりして、自分の体験を道徳科の見方・考え方を働かせて見つめ直すことが学習活動のポイントになります。
先生の方でも、道徳科の見方・考え方を働かせながら学校生活全体で指導をしていくと、児童生徒の思考にも徐々に影響してくることと思います。
その結果が、道徳的判断、心情、実践意欲と態度として現れてくると理想的と考えています💡
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