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【算数】知的障がいのある子どもが数をまとまりで捉えるには?~まとまりの考え方を身に付け,良さを感じ,生活場面に活かす~【授業・教材】

特別支援教育に係わる先生が,子どものことを考えて,情報収集をしたり,教材や環境設定の工夫をしたり,色々なことを考えたりして算数の授業を組み立てておられることが伝わってきます💡

数をまとまりで捉えることの良さ・便利さ

私たちの生活には、500円や50円硬貨、5分ごとの時計の針の表示、「2,4、6、8…」などの2飛びや5飛びの数え方、10枚一セットなど、数のまとまりがあふれています。

当たり前のようにそれらを使うのは、数をまとまりで捉えることの便利さや良さを知っているからだと考えます。

では、知的障がいのある子は、数をまとまりで捉える考え方を身に着けたり、その良さを感じたりすることはできるのでしょうか?

【子どもから学ぶ】A君の場合

知的障がい特別支援学校小学部3年生のA君は、発達年齢が4歳後半ぐらい。

1~100までの数字を読んだり書いたりでき、20までの数量は理解できつつあるのですが、具体物を指で押さえたり並べたりしながら数える方法が身に付いておらず、数え間違う姿がたびたび見られました。

左の図ような問題を解く際は、全てブロックの1番目から数えるといった様子で、数をまとまりで捉えて「5といくつ」のいくつによって多い、少ない、同じを判断することが難しい様子でした。

左の図のような問題では、イラストや具体物等があれば「合わせて」の意味は理解できます。

数字だけだと、1と2で合わせて「12」、5円玉1枚と1円玉2枚を見て「511」と書くなど、数字と数量との結び付きが十分でない状態でした。

【将来の働く姿をイメージして】身に付けたいこと

このようなA君ですが、とても社交的で何事にも意欲的ですので、将来の働く姿を考えたとき、

  • 「10、20、30…」とより大きな数を間違えずに数えたり取り分けたりする
  • 硬貨を組み合わせてお金を支払い、簡単な買い物をする
  • 時計を見て残り時間を読んで行動する

など、「数をまとまり」は彼のこれからの自立的な生活に必要な考え方だと思いました。    

【調べてみた】子どもはどのように数のまとまりを捉えていくのか?

では、子どもはどのように、数のまとまりを捉えていくのか?

調べてみたところ、初めのうち、子どもが一目で正確に把握できる数は3までで、それ以上の数になると、一つずつ数えていくのだそうです。

これまで知的障がいのある子に数を教えていた際、1~3までは順調に進んでいくのだけど、4・5の数になると急に難しくなり、3と4の間には壁があるなぁ、と感じていた原因が分かりました💡

「3と2で合わせて」などの合成は手の助けを借りて行うと言われています💡

5という数字と手との関連について

「片手全体は一つのまとまりとしてイメージしやすく、5という数字の意味は理解しやすい」

湯沢正道(2016) 『ワーキングメモリを生かした学習の支援(月間障害児教育6・7号)』 学研

「5という数字は子どもにとって数を判断する際の基数の役割をもつ」

吉田 甫(1991) 『子どもは数をどのように理解しているのか』 新曜社

と述べています。

これは、目の前にないものを数えたり合成したりする際に指を使うと便利なこと、指の数5本がひとつのまとまりになることに気付きつつある4月段階のA君の姿と重なりました。 

単元計画について考える

そこで、知的障がいのある子どもに数のまとまりについて教えていくとき、どのような単元指導計画を組もうかな?と考えました。

まず、原則数は10進法なので、数のまとまりも「10」を基本としますが、

  1. スモールステップで「5のまとまり」を教え
  2. 「10のまとまり」の学習に進む

ようにしました。

また、小学校1年生の教科書を見ると、まとまりに関係する指導内容として、

  • 「合わせていくつ」
  • 「いくつといくつ」

など、合成・分解の考え方が比較的に早い時期に出てきます。

しかし…

特別支援学校の日常生活の中で、1つずつ配るという操作はよくあっても、分解の操作、例えば「4個の物を2人で分ける」などということは比較的少ないなぁ

と考えました。

また、「6」の分解は「5と1」、「2と4」など様々な組み合わせが何パターンもあり、考え方が非常に難しい問題でした。

知的障がいのある子の場合には,

  • 覚える知識の容量にも限りがある
  • 覚えるための学習時間にも限りがある

そのため、ある程度内容の抽出が必要と考え、普段使うことの多い合成の考え方を基本に教えることにしました。

いろいろ考えた結果、

  • 「5のまとまり」のすぐ後に5円や50円を用いたお金の学習
  • 「10のまとまり」のすぐ後に10円と1円の組合せの学習を行う

ことで、得た知識が生活に生かされることを子どもが実感できるよう単元配列の工夫を行いました。

授業の中では、遊びや具体的操作を取り入れて、子どもが楽しく活動に取り組みながら、数のまとまりの考え方を使う場面をたくさん設定しました💡

第1次「5のまとまりをつくって考えよう~あわせていくつかな」

第1次の「5のまとまりをつくって考えよう~あわせていくつかな」では、

①自分と友達の出したサイコロの目の数をあわせ、相手チームより大きな数を出すゲーム
(サイコロから6の目をはずしておく。また、必ずどちらか一人が5の目が出るように細工しておく)

②教師の出したサイコロの目5に対し、目的の数にするにはあといくつ出せばいいかを考える

という2つの遊びをしました。

授業の中では、視覚的手掛かりを提示したことで、「5といくつ」のパターンを子どもが頭の中で作ることにつながりました。

さらに、合成の時に徐々に指の使用が減ったことから、数字と数量の結び付きが強くなったと考えました。    

第2次「買い物をしよう 5円や50円の使い方」

第2次「買い物をしよう 5円や50円の使い方」では、正しくお金を支払って買い物しようというめあてのもと、

  1. 机上で金額を読んだり支払ったりする操作をした後に
  2. 模擬店で買い物をする流れ

にしました。

「今回は1円、5円、10円、50円を使うよ」と、使用する硬貨を明示し、お金の練習→買い物の流れにしたことで、5円や50円を使って支払うにはどうしたらよいかという課題への積極的な取組につながりました。

A君
A君

「5円と5円で合わせて10円だ」

A君
A君

「1円玉5枚で5円。あ、5円玉と同じだ!」

という発言があり、子どもが5のまとまりの考え方を生かす様子が見られました。

その後の生活単元学習でも、かき氷屋の模擬店で正しく指定された金額を50円と10円を組み合わせて払う様子も見られました。

第3・4次「10のまとまりをつくって考えよう 20までの数」

第3次「10のまとまりをつくって考えよう 20までの数」では、数を間違えずに数えて宝箱を開けようというめあてのもと、以下の活動を行いました。

  1. NHKforSchool「算数犬ワン」を視聴
  2. その後,10のまとまりをつくって具体物を数える活動

その際、卵パックなど、10のまとまりを意識できる教材を用意しました。

そして授業の最後に、前時で自分なりに数えた並べ方と、タブレット端末で撮影した本時の並べ方を比べ、「どちらがぱっと見て数が分かりやすい?と発問し、並べ方を比較するようにしました。

本時の並べ方を指差し、

A君
A君

「こっちの方が分かりやすい!」

と発言する姿が見られました💡

VTRの視聴や卵パックの使用により、10のまとまりをつくりながら数えることで、

  • 「10と3で合わせて13」などの数構成に気付くことができました。
  • 数を数える際には、並べながら数えるようになりました。

その後の第4次では、10のまとまりを10円玉に置き換え、「10円と1円で11円」など、位の違う硬貨を組み合わせたお金の学習を行いました。

第5次「まとまりで数えることの良さに気づき・活用する」

ここまでは、まとまりの考え方を教えた形でした。

まとまりで数えることの良さを味わうまで行ってほしいな💡

と思い、第5次で、数える物の個数を多くして、たくさんの物を数えるにはどうすれば良いかという授業を行いました。

数えている途中でわざと話しかけたり、机の上がごちゃごちゃになってどこまで数えたか分からないという困った状況を意図的に生み出したりし、既習で使った卵パックやトレイなどを用意して、自分で使いやすい補助具を選択して数えることから始めました。

第3時では、

今日は補助具を持ってくるのを忘れてしまいました💦ごめんね💦
自分で工夫して正確に数えてみて💡

と投げかけました。

すると、

  • 20ぐらい数えたあたりでまた最初の1から数え始めたり💦
  • せっかく作ったまとまりとまとまりの隙間が狭まって混ざったり💦

など、混乱が見られ、できていたこともできなくなってしまう姿が見られました。

そんなA君が,第7時頃から自分で工夫して10のまとまりを作り出しました✨

教師から何度も数えるのを邪魔されるうち、腹が立ったようで、自分から教室にあった小さなかごをいくつか持ってきて、つのかごに10ずつ入れました✨

そして最後に

A君
A君

10,20,…50!全部で50だ!

と数えていました✨

数学的な考え方の良さを味わうことが大切

障がいがない子であれば、概念や考え方を生活に生かすことはそう難しいことではないかもしれません。

しかし、知的障がいのある子どもが、まとまりをつくって数えることの良さ、いわゆる数学的な考え方を味わうには、概念と経験が一致するまでの長い時間を見ておくことが必要です。

あ~!このやり方や考え方が便利じゃん💡

と,自分で気付いたり納得したりするまで、

  • 場所
  • 具体物
  • 人(やりとりする相手)
  • 状況

などを変えて、多くの体験と積み重ねがいるなぁと、A君との学習を通して教わりました💡

子どもたちが見ている世界と,生活に役立つ算数を繋いでいくための先生のアイデアがとても勉強になりました💡

参考文献

・1)湯沢正道(2016) 『ワーキングメモリを生かした学習の支援(月間障害児教育6・7号)』 学研

・2)吉田 甫(1991) 『子どもは数をどのように理解しているのか』 新曜社

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