Open Chat
本研究はJSPS科研費(課題番号23K02737)の助成を受けて実施しております。【切実なお願いです🙇】研究成果報告にはユーザーからの評価が必要です。チャットボットご使用の際は、アンケートへ(1分程度)のご協力をお願いいたします🍀

【事例紹介】書字障害がある中学生への合理的配慮【定期試験】

引用元:インクルーシブ教育システム構築支援データベース

こちらの記事は、いただいた質問に対する情報提供の目的で作成いたしました。
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所インクルーシブ教育システム構築支援データベース(インクルDB)から、R02-0020JC2-LDの事例を紹介しています。

書字障害がある中学生への授業・定期試験における合理的配慮

事例の概要

通常の学級に在籍する書字障害のあるA生徒(中学2年生)は、友人関係も良好で学校での活動は前向きに取り組めている。文章を書く能力はあり、口頭による意思伝達は問題ないが、板書の書き写しが遅れ、提出物の作成に時間がかかるなどの書字の困難さがあり、そのため出来ないことにより自信をなくす場面が見られた。
 A生徒は、前年度から授業内でパソコン利用をしている。導入当初は本人のニーズが低く機器操作力もついていなかったこともあり、板書の入力にとどまっていたが、今年度からは機器操作力も上がり、本人のパソコン利用で学習をすすめる意識が上がってきた。国語や保健体育などの定期試験で解答を記述する場面では、パソコンで記入することにより、自分の考えがまとめやすくなった。考える時間の確保と正確な漢字を使用していることで体裁も整えられ、課題に対する達成感を持つことができ、以降の課題にも前向きに取り組むことができた。
 また、教員側も合理的配慮事項「学習内容の調整」に取り組むことにより、小テストや定期試験における「問いの本質」を考えるようになった。

対象生徒の実態

障害種:学習障害
在籍:中学校2年生(通常の学級)
友人関係や集団適応:良好であり、係、当番、部活動など意欲的に取り組んでいる。

学習状況

授業では文章を考え、口頭で自分の考えを伝えることはできるものの、筆記をすることが困難で、板書の書き写しが間にあわなかったり、提出物作成に時間がかかったりする状況が続いた。そのような状況になっても、本人は頑張って取り組んでみようとしたものの、出来なかったことにより、自信を失くしていく場面が見られ始めた。

【重要!】合意形成に至るまでの経緯

保護者が就学前の教育相談を希望し、校長と特別支援教育コーディネーターが同席してそれを行った。その際に学習障害と小学校の支援についての報告があり、B中学校への入学後も同様の支援を希望した。

B中学校は学習障害に対して行う合理的配慮の一つとして、授業中にパソコンを使用することを提案したところ、本人と保護者からは入学後しばらくは中学校生活での学習に慣れてから検討したい旨の返答があった。

入学後は、校内特別支援部会や大学教員で連携し、小学校で行っていた支援を継続していたが、保護者からの再度の教育相談の要望があった。英語の宿題に大きくつまずくなど、中学校の学習に困難さが見られている状況であること、家ではタブレット端末の読み上げアプリを使用した学習を取り入れていることの話があったため、パソコンの導入を提案し、本人の要望を踏まえて導入する方向で同意を得た。

また本人もパソコンを使用して学習をすすめることに前向きであったため、授業中にパソコンを活用する支援を行うこととした。

この事例では、学校がリードする形でパソコンが導入されていますね💡

【資源の活用】専門性のある指導体制の確保

定期的に大学教員、特別支援教育コーディネーター、学級担任、管理職、特別支援教育指導員等とケース会議を行い、情報処理教育を専門とする大学教員からパソコンの使用に関する基礎的なことや、活用方法のアドバイスを受けた。また特別支援教育を専門とする大学教員からはパソコンでの学習について考えられる支援について助言を受けた。

大学教員2名が入って手厚く支援しています💡

【自立活動の視点】学習上又は生活上の困難を改善・克服するための配慮

校内全ての教職員に、A生徒が授業中やテストなど、あらゆる教育活動においてパソコンを利用することの了解を得るとともに、学級に対しても配慮をするよう協力を求めた。まずは授業中での使用を行い、本人の要望に応じてテストや学級活動等の時間に活用すること目指し、本人の機器操作力向上を目標とした配慮を行った。

定期テストでは、前年度からの取組の、特別支援教育支援員による読み上げを継続した。これは、A生徒が読み飛ばしや読み間違いなど困難さを覚えていることを教科担任、特別支援教育支援員が見取り、行っている。

また、定期テストでは国語の解答欄を、升目に文字を書く形式ではなく、本人が書きやすいような解答欄を、教科担任が個別に作成した。

経験を通して生徒自身が適した環境を理解し、将来的には自分自身で主体的に環境づくりができるようになることが期待されます💡

学習内容の変更・調整

パソコンの利用については、本人の要望により行うこととし、理科などの板書の比較的多い教科については、パソコンのカメラを利用した撮影を行い、自宅でノートを整理するなどでパソコンを活用した。また、社会のポートフォリオ作成などでは、パソコンを用いた作成を認めフォーマットをファイル形式で渡すなどの配慮を行った。他教科は、本人が「手書きの方が書きやすい」と特別支援教育支援員に話したので、本人の取り組みやすい方法をとった。

本人の様子に配慮した保護者からの要望により、国語における漢字小テストは、漢字の読み取りのみにした。また、定期試験における漢字の書き取りについては、漢字変換で適切な漢字を選択することで評価した。

英語の小テストについては、教科担任と特別支援教育支援員が話し合い、英単語のつづりは選択項目をテスト用紙に設けた英作文については、テスト用紙にランダムなフレーズを予め記入しておき、本人は並び替えを行うことで受験した。

学習指導要領の記載を柔軟に解釈した対応になっています。

情報・コミュニケーション及び教材の配慮

配付した教材等については、電子化を認め、パソコンのカメラで撮影することを許可した。社会の教材では、自分の考えたことを、色を変えて記入するなど、機器操作力が向上し、学習課題について思考する時間が確保できた。

児童生徒、協力員、保護者、地域の理解啓発を図るための配慮

事前に当該生徒が在籍するクラスの生徒に対し、本人がパソコンを使用することに関して理解と協力を求めた。

A生徒の在籍学級の生徒に対し、A生徒がパソコンを使用することに関しての理解と協力を求めた。昨年度のA生徒の母親からの要望をクラスに周知し、A生徒の困難さにどう取組んでいくか説明した。

取り組みの成果と課題

(1)取組の成果

前年度からの継続した取り組みで、A生徒のパソコンの操作技術が向上した。これは学習指導要領における「情報活用能力の育成・ICT 活用」に当たる部分といえる。その力が付いたことにより、A生徒は「(テストなどの)結果としては出ていないかもしれないが、パソコンを使うことで、漢字変換がスムーズにでき、自分の考えがまとめやすくなった。そうすることで、もっとしっかりと考えられるようになってきた。」という旨の発言をした。今までは板書を写す、授業についていくことが中心となっていたが、パソコンを利用することで、学習内容について思考を深めることができたといえる。

A生徒は定期試験においては、「社会のテストはスムーズに試験を受けることができた」と話していた。これは、日常的にワークシートの記入などでパソコンを使用しているからだと考えられる。授業におけるパソコン使用と定期試験の内容や解答の工夫なども、連動して行うことがスムーズなパソコン受験につながると分かった。

また、定期試験で国語や保健体育、その他の教科で解答を記述する場面では、パソコンで記入することにより、自分の考えがまとめやすくなったようであった。考える時間の確保と正確な漢字を使用していることで、体裁も整えられ、課題に対する達成感を持つことができ、前向きに取り組むことができた。

教員側も合理的配慮の「学習内容の調整」をすることにより、小テストや定期テストの「問いの本質」を考えるようになった。その問題を出すことで、生徒たちが、その課題の中で何が分かればいいのか、例えば国語科であれば「なぜ書き取りを課すのか。書き取りを通して何ができるようになればいいのか」今まで当たり前のようにして出題していたことの本質を考え始めるようになった。

(2)課題

課題としてあげるが、ある意味成果の部分でもある。それは、(1)で述べたように、本人の「考える時間が増えた」ことにより、学習の遅れが、本人の認知的な部分にもよるところが見え始めたことである。一斉授業において生徒たちは様々な理解度をもっている。どの理解度にどこまでの教科内容の理解を促すかの「授業のゴール」を教員はもたなければならない。

さらに今後は教員側に、個別の配慮のみではなく、「授業のユニバーサルデザイン化」を図ることも求められる。

本人への学習の仕方を指導支援していく必要も見えてきた。今までは授業や学習内容にどう「巻き込む」かを協議してきたが、パソコン利用で授業内容に参加できることから、この生徒に応じた「学習方法」を指導支援していく必要が見えてきた。

次に学習内容の調整における「他の生徒との評価の公平性」について、教員間で共通理解を図る必要性も見えてきた。これについては特別支援教育コーディネーターと教務主任、学校長と協議し調整していく。

また、教科担任の負担感も少し出てきた。個別に対応していくことは、別の解答用紙、別の小テストを新たに作るということである。特定の教科担任の負担にならないように、学年主任と連携し、役割分担をしていくなどを考えている。

学校からの、積極的な合理的配慮の提案が読み取れる事例です💡

コメント

タイトルとURLをコピーしました